30年前の記憶

毎年この時期になると思い出す。

30年前の今頃、私はアラスカに向けて旅立った。

オーロラを見るために。

 

高校の卒業アルバムの寄せ書きに「南極に行ってオーロラを見たい」と書いた。なぜ南極だったのかは覚えていない。テレビでドキュメンタリーでも見た影響だったのか。とにかくこの目でオーロラを見たいという思いだけが残っていた。

私の職場は一年に一度、必ず一週間休暇を取らなければいけないという決まりがある。土日を含めると9連休になる。ラジオ番組で募集していたオーロラ見学ツアーがあり連休を利用することにした。

発生しやすい時期とは言えど見られるかどうかは時の運。見られなくてもだれの責任でもない。半分賭けのようなもの。そう思いながらアラスカに着いたその日、突然それは現れた。

最初は薄くはっきりしないものだったが、少しずつ濃くなりはっきりとわかるようになった。緑がかった短めの一枚のカーテン。いきなり初日からついてる。その日はそれで終わった。

アラスカに滞在できるのは4日間。夜は3日だけ。その間に何としても見たい。

翌日夜中の2時頃ホテルを出発し、発生しやすい場所へと向かった。その場所に近づくにつれ白く薄いモヤモヤしたものが現れだした。森の中の広場のような所に到着後、氷点下23度の中を30分程待つ。鼻で息をすると鼻毛が凍る。北極星がやけに大きく見える。時には流れ星も。

そんな状況で見上げる空にはいつしか何枚もの白いカーテンができていた。風に靡くようにヒラヒラと舞うその様子は私が想像していたオーロラの何倍も美しかった。寒さを忘れて雪の上に寝転がった。私に向かって降り注ぐオーロラ。今ならスマホで動画が撮れるがまだそんなものはない時代。安いカメラでは一瞬を収めることさえできなかった。感動も限度を超えると声が出ないのか、ただひたすら口を開けて見ていただけだった。数十分後、少しずつ消えてきた頃ホテルに戻った。地元のガイドさんですら「これは素晴らしい」と言うオーロラを見てその夜はなかなか寝付けなかったのを覚えている。

翌日もオーロラは姿を現し、前日ほどではないものの私たちを満足させてくれた。

アラスカ最終日、犬ぞり体験を楽しみ岐路についた。

滞在した三夜とも奇跡的にオーロラを見ることができ、すっかり運を使い果たしたように思える。

あれから30年、今なお私の記憶の中にはあの降り注ぐオーロラがしっかりと残っている。